セックスすれば、友達ではなく恋人になるのか? 徳永えりのフェロモン充満『月極オトコトモダチ』(サイゾー) – グノシー

どこまでが友人で、どこからが恋人なのか。セックスしても、友達のままでいられるのか。『ドラえもん』の静香ちゃんは、いつからのび太のことを異性として意識し始めたのか。徳永えり主演作『月極オトコトモダチ』は、男女間に横たわるそんな曖昧な謎を検証してみようという試みの映画となっている。
本作の主人公・那沙(徳永)はウェブマガジンの編集者。ある晩、銀座コリドー街のバーで、なかなかのイケメン・柳瀬(橋本淳)と出逢う。柳瀬は「レンタル友達」を生業としており、この夜も気の弱い男性依頼者に頼まれ、ナンパ代行のために訪れたという。普段は女性からの依頼が多いらしい。「男女の関係にならないの?」と那沙が素朴な疑問を投げかけると、「男女の関係にはならないスイッチがあるから」と自信満々に答えてみせる柳瀬だった。
柳瀬のことが気になった那沙は「男女間の友情はレンタルできるのか」というテーマで、ウェブ連載を始める。柳瀬と月極(つきぎめ)でのレンタル契約を結び、ビジネスとしての男女間の友情を育むことに。ウェブ上での反応は上々。さらにPV数をアップさせるために、編集長から「ひと晩一緒に過ごしても何も起きないのか」を実証するよう命じられる。
柳瀬は人当たりがよく、話も聞き上手で、一緒にいると心地よい。給水塔やガスタンク群などユニークな場所を巡っているうちに、柳瀬に好意を抱くようになった那沙は悩む。どこまでが取材者としての好奇心なのか、本気で惚れてしまったのかわからなくなってしまう。
本作のモチーフとなっているのが「レンタル友達」という職業。友達代行サービスとして運営している会社は実在しており、「ディズニーランドに行きたいけど、ひとりで行くのは嫌」といった人たちからのニーズがあるらしい。本作で長編映画デビューを飾った穐山茉由監督は、実際にレンタル友達を利用して脚本を書き上げたという。「けっこう値段がするので、一度しか利用していません」(穐山監督)とのことだが。
園子温監督の名作『紀子の食卓』(06)や岩井俊二監督の珠玉作『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)では、「レンタル家族」がモチーフとなっていた。お金を介することで、ようやく理想の家族が手に入るという現代社会のアイロニーが描かれていた。でも、時給制でつながる“疑似家族”としての距離感と関係性は、意外と心地よかったりもする。また、疑似恋愛もとても映画的な題材だといえるだろう。どこまでが演技で、どこからが本音なのか。そのボーダー上に、那沙と柳瀬は立つことになる。
主演の徳永は、映画『フラガール』(06)や『春との旅』(10)で注目され、かねてから演技力に定評があった。2018年に放映された深夜ドラマ『恋のツキ』(テレビ東京系)で、地上波ドラマながら過激な濡れ場を演じて話題となり、30歳にしてブレイクした感がある。ちょっと地味めな、生活感のある雰囲気が、逆に男心をそそらせる女優である。
そんな徳永扮する那沙は、柳瀬のマンションにスマホをわざと置き忘れ、終電間際になって取りに戻る。こういうあざとい芝居を、徳永は実にリアルに演じて見せる。那沙は柳瀬のマンションで一夜を過ごすことに。2人で、どこまで友達でいられるのか確かめ合うことになる。
実験の第1ステップは、体の接触。ベッドの上で手を握り合っても大丈夫。第2ステップはキス。唇と唇を寄せ合う2人。これもなんとかクリア。そして第3ステップは、いよいよセックス。一線を踏み越えても、お互いにそれまでの友情をキープできるのか。マンションの一室に、むせ返るほどの濃厚なフェロモンが充満する。深夜の人体実験はどんな結果をもたらすのだろうか。
那沙と柳瀬の関係に大きな影響を与えることになるのが、那沙の親友であるミュージシャンの珠希(芦那すみれ)だ。那沙と同居中の珠希も柳瀬と知り合うことになるが、柳瀬も音楽をやっていることからすぐに意気投合する。ウェブ記事を執筆する那沙は言葉で思考するが、ミュージシャンの珠希は感覚で理解する。レンタル契約なしで、珠希と柳瀬が仲良くなっていく様子を傍から見ている那沙は歯がゆくてたまらない。
珠希によれば、「曲をつくることは自分をさらけだすこと。恋愛と似ている」という。取材を口実に、レンタル契約を結ぶ形でしか柳瀬と接することができない那沙の押さえ込んでいた感情が爆発する。R18映画『ジムノペディに乱れる』(16)で体当たり演技を見せた芦那と演技派・徳永との一人の男をめぐるバチバチ対決は、かなりの迫力がある。
3月に公開された黒川芽以主演の実録恋愛コメディ『美人が婚活してみたら』では、友達付き合いするには最適だが、恋人にはなれない残念なサラリーマン・園木(中村倫也)という共感を覚えるキャラクターが登場した。園木がいくら努力しても恋愛対象となるには、何かが足りなかった。那沙もそうだ。友達と恋人との狭間に立ち塞がる、その“何か”をウェブでの連載が終わった後も探り続けることになる。
そういえば、『ドラえもん』の静香ちゃんとのび太はいつから男女の関係になったのだろうか。たぶん、静香ちゃんはドラえもんと別れた後のひとりぼっちになったのび太に、その“何か”を感じたに違いない。芦那のミュージシャン名義であるBOMIが歌う主題歌「ナニカ」を聴きながら、ふとそんなことを考える。その“何か”は、ドラえもんの四次元ポケットには入っていないものらしい。多くの男女が、その“何か”を求めてのたうち回っている。
(文=長野辰次)
『月極オトコトモダチ』
監督・脚本/穐山茉由 音楽/入江陽 劇中歌・主題歌/BOMI
出演/徳永えり、橋本淳、芦那すみれ、野崎智子、師岡広明、三森麻美、山田佳奈
配給/SPOTTED PRODUCTIONS 6月8日(土)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ板橋ほか全国順次公開
(c)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会
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