Koichiro Tanaka, Head of JIME Center, Institute of Energy Economics, Japan / Shuji Hosaka, Assistant Director of JIME Center, Institute of Energy Economics, Japan
日本エネルギー経済研究所中東研究センターの田中浩一郎氏センター長、保坂修司副センター長が「サウジ・イラン断交:地政学的影響を考える」というテーマで話し、記者の質問に答えた。
司会 脇祐三 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)
http://www.jnpc.or.jp/activities/news...
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
記者による会見リポート
亀裂深まるサウジ・イラン関係 地政学的影響を考える
サウジアラビアがイランと断交に踏み切り、中東情勢が一段と混迷するなかでのタイムリーな研究会になった。サウジ、イランそれぞれの専門家が、断交に至った背景や今後の見通しを語った。
きっかけはサウジが1月2日、同国のイスラム教シーア派の宗教指導者ニムル師の死刑を実行し、これに反発したイランの民衆がテヘランのサウジ大使館などを襲ったことだ。保坂修司氏はニムル師の過激な主張が、慎重な姿勢をとる同国の他のシーア派指導者とは対照的であり、これが不満を持つ若いシーア派信徒を引き付けたと説明した。ニムル師はシーア派だが、処刑された47人の大半が国際テロ組織アルカイダのメンバーであったことに注目し、ニムル師をテロリストと印象づけるためにあわせて処刑を実行したとの見方を示した。
サウジ政府は外交団への攻撃と、イランによるアラブ諸国への内政干渉を断交の理由にあげる。保坂氏はこのうち大使館襲撃についてはイランが襲撃犯を処罰する意向を示しており、解決が可能とみる一方、内政干渉については対処の基準が明確でなく、解決は難しいと指摘する。
そのうえで両国の和解の行方を占う尺度の一つとして、今年9月のイスラム教の聖地メッカへの巡礼シーズンに、サウジがイラン人の巡礼を認めるかどうかだと指摘。仲介できるとすればサウジ、イラン両国と関係を保つオマーンがカードとなりうるとの見方を示した。
これに対し、イランに詳しい田中浩一郎氏は、イラン国内ではニムル師への関心はそんなに高くないものの、聖地メッカでの将棋倒しで多数のイラン人巡礼者が死亡した事件などを通して、イラン人の間で反サウジ感情が高まっていたと指摘。これが襲撃事件の背景になったとの見方を示した。
イランと米欧などとの核合意に基づく経済制裁の解除を控えた時期の事件は強大化するイランへの懸念を具現化し、同国の国際社会復帰へ冷や水を浴びせかける結果となったと分析。短期的にはサウジとの関係改善は見込めないとした。
保坂氏によれば、事件はシリア和平に影響しないというのがサウジの公式見解だが、1月末に検討されているアサド政権と反政府勢力の交渉が実際に始まるかどうかを見極める必要があると述べた。田中氏はサウジがアサド大統領退陣を求める条件を取り下げるとは思えないとしたうえで、サウジとイランの断交はシリア和平に重い足かせとなったと指摘した。
両氏はサウジとイランそれぞれの権力構造についての分析も示した。サウジではサルマン国王の息子であるムハンマド・ビン・サルマン副皇太子の存在感が増している。保坂氏は副皇太子が国防大臣としてイエメンやシリアへのサウジの介入に重要な役割を果たし、国営石油会社サウジアラムコの株式上場など経済面の改革も主導するのは、将来の国王への流れをつくるための実績づくりではないかとの見方を紹介した。
田中氏はイランの最高指導者ハメネイ師とロウハニ大統領の関係は悪くないと説明したうえで、今後の注目点として、2月の最高指導者を選任する権限を持つ専門家会議の選挙や、1979年のイスラム革命を指導したホメイニ師の孫であるハサン・ホメイニ師の動向などをあげた。
日本経済新聞編集委員兼論説委員
松尾 博文
powered by Auto Youtube Summarize