出典:EPGの番組情報
100分de名著 エドガー・アラン・ポー(2)「作家はジャンルを横断する」[解][字]
陰鬱な屋敷に旧友を訪ねた語り手の「私」。神経を病み衰弱した友と過ごすうち、恐るべき事件が次々に生じる。病み衰えて死んだはずの妹の遺体のある部屋から謎の音が…。
番組内容
あたかも詩の朗読にリンクするように崩壊を始める屋敷……果たして結末は? ゴシック風ホラーの傑作といわれるこの作品は「散文」と「詩」が見事に融合し、驚くべき効果を発揮している。いわば、雑誌編集者としてさまざまなジャンルを横断し続けたポー自身を象徴するような物語だ。第二回は、ポーの人となりや執筆背景を掘り下げ、文学ジャンルを横断し融合させながら新たな表現の可能性を切り開いたポーの創造力の秘密に迫る。
出演者
【講師】慶応義塾大学教授…巽孝之,【司会】伊集院光,安部みちこ,【朗読】北村一輝,【語り】よしいよしこ,【声】羽室満ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格
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解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)
19世紀 現代につながる ミステリーや
SFなどの文学ジャンルを切り開いた
エドガー・アラン・ポー。
第2回は その代表作といえる
ゴシック・ロマンスの短編
「アッシャー家の崩壊」です。
荒涼たる沼地に建つ
廃墟のような屋敷。
その姿と共鳴するように
当主 ロデリックの精神が
崩壊していきます。
ポー独自の文学理論によって生まれた
小説芸術の極致。
ジャンルを超えて 輝きを放つ名作を
読み解きます。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
「100分de名著」 司会の安部みちこです。
伊集院 光です。
今月は
「エドガー・アラン・ポー スペシャル」です。
伊集院さん 1回目は いかがでしたか?
恐らく 推理小説の人なんだろう みたいな
先入観があったんですけども
割と
オールラウンドプレーヤーというか
いろんな才能を持ち合わせた人なんだ
ということが分かりましたね。
人生も結構 面白かったですよね。
もう波乱万丈で。 はい。
では 指南役 ご紹介しましょう。
アメリカ文学者で慶應義塾大学名誉教授の
孝之さんです。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。 どうも。
さん 今回取り上げる
「アッシャー家の崩壊」というのは
どういう作品ですか?
これは
「バートンズ・ジェントルマンズ・マガジン」という雑誌に
1839年に掲載されたもので
やはり ポーという作家が考えた
詩学とか物語学というのが
フルに発揮された
完璧な作品という評価が多い
ゴシック・ロマンスの代表作です。
怪奇 幻想 それから恐怖ですね。
そういうものが
醸し出されるような小説
まあ ホラー小説の中に
脈々と受け継がれてる
今日でいえば スティーブン・キングの
「シャイニング」というのが
ありますけれども
「アッシャー家の崩壊」がなければ
決して書かれなかったと思います。
「シャイニング」 映画も大好きだし
珍しく小説も読みました。
初めて ページをめくったら
俺 どうかしちゃうんじゃないかって
思うような怖さがあって
その そもそものところにいる作品って
言われると
ちょっと テンション上がっちゃいますね。
はい。
では 早速
作品の中身に入っていきましょう。
季節は 秋。
重苦しい雲が垂れこめる中
アッシャー家に招かれた語り手の男。
彼は あまりに陰鬱な その屋敷の様子に
驚いていました。
鬱蒼と広がる沼
奇妙にバランスを欠いた建物。
それは まともな人間が住む場所とは
思えない 廃墟のような光景でした。
(扉が開く音)
重苦しいのは 屋敷だけではありません。
そこに暮らす
アッシャー家当主 ロデリックは
重度の神経疾患に さいなまれ
さながら恐怖の奴隷のようでした。
ロデリックの苦悩。
その理由は この世で唯一 血を分けた
最愛の妹 マデラインが病にかかり
死にかけていること。
そして…。
幽霊のような人影が 部屋の片隅に現れ
無言のまま 立ち去っていきました。
この女性こそ マデライン。
その様子から これが彼女の
生きた最後の姿だと 男は確信します。
こちらが アッシャー家です。
舞台は 沼地に囲まれている
暗く陰鬱な この屋敷ですね。
窓が あたかも
人間の目のように うつろであると。
それから ジグザグの裂け目が走ってると。
最大の この小説の伏線なんですね。
これは 19世紀前半のアメリカでは
生きてる人間と死んだ人間が
交信できるという心霊主義が
非常に人気を博してた。
まあ アッシャー家の屋敷というのは
恐らくは 先祖代々の霊を集約した
集合体でもあると思います。
だから ロデリックは ひょっとすると
交信してたのかもしれないんだけれども
これから どうなるのかと
読者が期待するわけです。
僕が中学生ぐらいの時に
ホラー映画ブームみたいのがあって
その時の作品を
結構 いろんなの 思い出すんですよ。
さっき言ってた 「シャイニング」も
もちろん そうなんですけど
その時 「悪魔の棲む家」というのも
こんな感じだったし
それから 「ポルターガイスト」という
映画なんかは もろに この感じで
その 元墓地の沼地みたいなところに
新興住宅が建ってて
そこに住んでる家族のもとに
ポルターガイスト現象が起こる
なんていうのも そうだし
多分 ポーがいなかったら
この作品 書かなかったら
あの時の ホラー映画ブーム
ないんじゃないかと思うぐらいの。
ラップ現象とかね。
ああ そうですよね。
で また この出てくる妹ですけれども
このマデラインも ちょっと
不気味な感じで描かれてますよね。
不気味ですよね。 ポーは とにかく
お母さんとね 早くに死に別れてたり
奥さんになった いとこのバージニアとも
死に別れちゃったりとか
女性に対しては
不幸だったんですけれども
人の心をつかむ
その最大のモチーフとして 美女の死と。
それによって
メランコリックな雰囲気を醸し出す。
それに 人々は惹かれるんだというの。
これを考えてみると
確かに ヒット作でも…
みんな 美女が死ぬわけです。
それによって
多くの人々の心をつかんでる。
ポーは 19世紀に そういう
まあ 言ってみれば 物語の黄金律を
作り上げたと言えると思います。
元祖だったんですね ポーが。
元祖ですね。 そう。
これ以上 年を取らないということとか
その いろんな要素が
多分 入れられるということに
いろんな想像をかきたてるということに
もちろん生きててほしいと思うこととか
もう気付いてるんでしょうね 恐らく。
そうですね。
さあ では続きを読んでいきましょう。
神経疾患に苦しむ ロデリックの心を
癒やすため
語り手の男は 共に絵を描いたり
読書をして 過ごしました。
しかし それらの試みは
全て徒労に終わり
彼は 深い闇に
吸い込まれていくかのようでした。
やがて ロデリックは ギターを奏で
「魔の宮殿」という詩を
即興で歌い始めます。
天使たちが守るユートピアのような宮殿と
その栄光の日々。
しかし ロデリックの詩は
徐々に破滅へと向かっていきます。
そして ついに アッシャー家にも
破滅が訪れます。
ある晩 マデラインが亡くなったのです。
すると ロデリックは
意外な行動に出ました。
外にある墓地ではなく 屋敷の中。
かつて 牢屋として使われていた地下室に
妹の遺体を安置したいというのです。
ひつぎを前に ロデリックは マデラインと
双子であることを明かします。
そして 彼女を埋葬したあと
彼の様子が 更に重苦しくなったことに
男は気付きました。
これまた 何か 新しいというか
斬新なアイデアが入ってるというか
途中で
美しい詩の世界みたいの 始まって
あれ?
何か美しい詩を話してるなと思ったら
それまた
ちょっと朽ち果ててく感じとか。
あの ポーは 非常に詩と小説の違い
というのは明確に分けてたんですね。
で 詩は美を求めるけれども
小説は真実を求める。
しかし この「アッシャー家の崩壊」では
その 詩と小説の融合という
当時としては 非常に冒険的な
ジャンルミックスが
行われているんですね。
ここで肝心なのは その
ロデリックがですね ギターを弾いて
即興演奏として
歌を歌ってるわけですよ。
ポーにとっては…
詩の朗読ではなくて
弾き語りだというのが また うまくて
詩ではあるんだけど セリフでもあるし。
セリフでも… そう。
セリフではあるんだけど
歌でもあるみたいな。
歌詞でもある。
そうですね。
さっき おっしゃってた
詩は美しいもの
小説は もっと冷静なもの みたいのの…
ミックスが すごく うまくいってるんだ
というのは分かりやすいところでしたね。
ポーの文学理論というのを
ご紹介したいんですが…
読者というのは 別に
その 何か教訓を与えられたいから
小説を読むわけじゃ
必ずしもないわけで
やはり ポーは
読者には 何か驚きを与えたいと。
で この効果というのは
英語で effectなんですが
このeffect 実は二重の意味があって
「cause and effect」の
原因と結果の 結末という意味もある。
だから 一番終わりの
クライマックスに向けて
それが効果的になるように
さまざまなね 伏線を張り巡らしていく。
更にね 文学作品を読む
時間のことまで想定してるんです。
彼の頭の中では 1時間なんですよ。
1時間で読みきれなかったら それは
効果の統一を乱すと言ってるんです。
ポーは テレビの番組もない時代に
とにかく 1時間ならば
視聴者の注意を引きつけられると。
19世紀の前半と思えないぐらい
新しいということですね。
僕は 感動すら覚えるのは
その 今の理論の根底にあるのも
読んでる人は
どう思うだろうかっていう
これ以上 長くなったら 面白くないんじゃ
ないだろうかっていう想像があるから
1時間なんだと思うんですよ。
大体 人が一気に読めるのって
これぐらいでしょって。
これ以上だと
何 言ってんだっけになるなぁ みたいな
そういう 何ていうのかな
読者が 観客が どういう気持ちで
この作品を読むのかっていうところが
多分 やっぱり根底に流れてるから。
そうですね。 だから読者と共に
観客って考えてるんですよね。
この人 さすが
シェークスピア役者の息子だけあって。
なるほど。
ああ~。
1夜目に出た 彼の略歴みたいのが
僕は すごく
ジャブみたいに効いてくるのは
シェークスピアの役者のおうちに生まれて
観客 どう思うか。
そのあと 孤独っていうものが 想像力を
育てて… みたいのを考えていくと
何か なるべくしてなった天才の感じは。
そうですね。
しかし その天才は 実生活で
酒癖が悪く ケンカっぱやくて
いろんな会社の社長を
怒らせたりしたっていう。
読者のことは こんなに よく分かって
分かってるにもかかわらず
自分が今 どうなっちゃってるのか
いまいち
うまくコントロールできない みたいな。
さあ 物語は このあと
いよいよクライマックスです。
見ていきましょう。
マデラインを地下室に安置して
1週間ほどたった 夜更けのこと。
ロデリックを落ち着かせようと
男は 書棚にあった 「狂気の遭遇」という
伝奇小説を読み聞かせます。
しかし ここで奇妙なことが…。
その小説の主人公 エセルレッドが
邪悪な者たちと戦う場面を読むと
作中に書かれた架空の物音が
なぜか アッシャー家の地下から
響いてくるのです。
扉をたたき壊すシーンでは…。
(扉が壊れる音)
更に 龍と戦うシーンでも…。
(金切り声)
地下室から聞こえる物音に ロデリックは
ひどく おびえているようでした。
そして 小説の中で 真鍮の楯が
勢いよく落下した その瞬間!
(落下音)
轟音が響き渡るとともに ロデリックは
恐ろしい告白を始めたのです。
ロデリックが そう告白した時…。
(扉が開く音)
(悲鳴)
そこに立っていたのは
血まみれのマデライン。
(叫び声)
彼女は ロデリックに襲いかかり
一瞬にして その命を奪ってしまいます。
恐怖のあまり 屋敷を飛び出した男が
振り返った時
ジグザグの裂け目が広がり
沼に アッシャー家が
飲み込まれていったのです。
う~ん… 怖い!
北村さんも うまくて 怖いですね。
ねえ。
朗読を聴いてて 思ったんですけど
ロデリックのセリフが
えらく詩的っていうか
何日も何日も前にね とか
繰り返す言葉とか
語尾を2回言うとかが
めちゃめちゃ多い。 そうですね。
あっ この人 正常でいたいけど
どうかしちゃってる感じというのが
めちゃめちゃ入ってる気がして。
その狂気 ロデリックの狂気を
屋敷も反復してくわけです。
は~。
シンクロ率を高めて。
繰り返してる言葉と
鳴り始める音とかを
それも 細かいカットバックでやってく
ということは 全部が共鳴してくし
お友達も お友達もちょっと
冷静じゃなくなってくじゃないですか。
その 何か全部が包まれてく感じが
短い抜粋だけでも入ってくるから。
今はね ほんとに テレビドラマでも
そのカットバックでね
2つのストーリーが
最後に融合してくという
そういうことは
ありきたりになってますけども…
…としか言いようがないと思います。
だって 映画生まれる前ですよね。
ええ。 映画は 19世紀末ですから。
僕は そこが すごいと思うのは
映画でやってることを
小説で表現しようっていって
作ってんじゃないですもんね。
じゃない。
全然 そんなこと考えてないです。
考えるわけがないです。
映画がないんだから。 ええ。
なのに「映画的」って すごい。
それと やっぱり この人
マルチメディアな人だったんだなという。
そうですね。
その 紙の上の文字だけを使って
ある意味 多分 音楽は
彼の中には流れてたであろうと思うし。
彼の中では鳴ってた。
やはり ああいう シェークスピア役者の
両親 持ってたから
非常に耳がよかったんだと思うんで
音楽への言及が 作品の中に
非常に多いわけですけれども
例えば フランスの印象派と言われる
クロード・ドビュッシー。
ドビュッシーが
「アッシャー家の崩壊」をもとにした
オペラを書いてる。
へえ~。
ただし
未完成に終わっちゃったんですが
100年以上たった
現代においてですね
我が国を代表するピアニストの
青柳いづみこさんがですね
作曲家の市川景之さんの加筆を加えた形で
未完のオペラを完成させて
コンサートで発表されたという形で
クラシックの音楽家にも
影響を与えてると。
ですから この「アッシャー家の崩壊」
という作品は
完璧な小説というふうにも
言われながら その…
やっぱり 今 何度 読み直しても
魅力を感じるところですね。
才能同士が共鳴すると もう1回
そのとおりの曲なのかどうかは
分からないんだけれども
人を超えたり 時代を超えたりとかして
もう1回 鳴るっていうか。
鳴るんですね。 そうです。
だから それは
何か ほんとに読者とシンクロしてるし
才能とシンクロしてる感じが
ちょっと ブルッときちゃう。
あと もっと言うと
俺らが想像もつかないような
新しいメディアって
できるわけじゃないですか。
今でいう
バーチャルリアリティーみたいなやつは
また もしかしたら これを とてつもない
表現に変えるような気がするし
その先 まだ つながっていくんだろうな。
ポーの遺伝子はつながっていくんだろうな
という感じがします。
さん ありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
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